2011年6月、 日本貿易振興機構(JETRO)より「中国の電子書籍市場調査」が発表された。世界的にみても電子書籍市場が拡大する中で、同報告書は、中国の電子書籍市場環境、電子書籍ビジネスモデルを説明する他、出版・電子出版に関連する各法令、書籍の「ネット販売」についいての動向も紹介し、日本企業による市場参入の可能性について触れるものである。
電子書籍販売数と収入に関しては、2009年で電子図書館の成長率は昨年比0.4%とほぼ一段落している一方で、有料閲覧、携帯電話閲覧はそれぞれ40.6%、90.0%と大幅に伸びており、「専用端末」についても、250%増の勢いで成長しているという。また、中国ネットユーザーの総数は4億5730万人(2009年比7330万人の純増)、ネット文学(ネットで発表された文学)利用者は1億9481万人(2009年比3220万人増)というデータもあり、更に2010年は「家電下郷」政策(家電の農村普及政策)により、電子書籍読者は約36%増の1億3700万人となるとの見積もりもあり、中国における電子書籍に関する目覚しい成長の兆しがうかがえる。
その一方で、「ネットコンテンツに対し料金を支払って読むという意識は主流ではない」「電子書籍リーダーでの読者は増加しているといえ市場もまだ非常に小さい」という傾向も紹介されており、消費者の実際の心象や市場規模についての別の輪郭もうかがえ、参考になった。
説明されている「電子書籍」「携帯電話向けの書籍配信」等のビジネスモデルの内、筆者は特に「電子書籍リーダー」に関連し「端末機主導」と「コンテンツ主導」という2つのビジネスモデルのせめぎあうような展開に興味を引かれた。
代表的企業のうち、国内初の電子書籍リーダー端末を発売した漢王は、電子書籍リーダーの中でトップシェアを占めており、また端末主導モデルは当初の主流のモデルとなっていたが、今後の展開のポイントをコンテンツと考え、出版社との提携を強化していくという。一方、コンテンツ制作に重点を置いて成長した盛大は、オリジナル文学の90%のコンテンツを保有しており、ついに2010年には低価格の電子書籍リーダーの発売にも乗り出し、その販売数はトップの漢王に迫る勢いにあるという。
コンテンツの版権を保有していることは市場を拡大する上で大きな役割を果たし、極論すれば、仮に電子書籍リーダーそのものが時代の流れにより消えていったとしても、コンテンツを有していれば他のプラットフォームでコンテンツを配信することができ、収益が得られるのが実情である。コンテンツ制作能力を有していない電子書籍リーダーメーカー等は、優良なコンテンツを提供できる出版社提携を模索しつつ、様々な読書サービスが提供できるプラットフォーム構築の技術開発に専念することを強調しているという。
中国企業は、日本のコンテンツ関連企業との提携にも意欲を見せており、特に、翻訳の影響が少なく、わかりやすく、電子書籍リーダーへの適用が容易で、既に人気の高い「漫画」について非常に興味を持っているという。盛大は、高度な複製防止技術、多くの会員数、版権の保護等の優位性をアピールしながら、日本の出版社等と提携交渉を進めており、漢王も日本のコンテンツアグリゲーターである株式会社クリーク・アンド・リバー社と戦略的提携契約を結び、2011年3月には20種類の日本漫画の発売を開始している。これらの積極的な姿勢と具体例は、参入を目指す日本企業にとっての参考となろう。
報告書内にまとめられている通り、日本企業が参入を考える場合、翻訳の問題や、一般消費者に広く受け入れられることが可能なコンテンツ、特に健全な人気漫画に限った展開が可能という現実的な側面を考慮する必要がある。既に人気を有しある程度浸透している漫画を入り口に、その他コンテンツの導入も探っていくという今後の道筋から、新たな展開が生まれることと期待したい。
|