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 Q&A


ビジネスモデル「探険」談 By 張 輝
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第51回 音楽業界におけるビジネスモデルの進化とは


 2018年11月、「『音楽業界が衰退』は過去の話。音楽市場は完全に復活しつつある!」という記事を読んだ。「『音楽ビジネスは厳しい』『音楽業界は縮小している』というイメージを持っているかもしれませんが、しかし、それはもう過去の話。音楽業界は再び成長しているのです。」と、同記事は関連の音楽市場における売上推移のデータなどをもって力説している(記事)。

 ところで、2015年3月、江戸川大学社会学部准教授の八木京子氏は、『江戸川大学紀要』第25号にて発表された興味深い論文「音楽産業におけるビジネスモデルの潮流に関する一考察−ビジネス・エコシステムによる価値共創の可能性−」において、次のように述べている。

 「近年、社会経済のグローバル化や情報ネットワーク化が急速に進む中、多くの産業でその産業構 造が変化し、ますます複雑化の様相を呈している。中でも、音楽配信に代表される技術革新や ICTの進展といった影響をいち早く受け、ビジネスモデルの転換を迫られるなど、苦境に立たされてい るのが音楽産業である。音楽産業は 19 世紀末に録音・複製技術が発明されて以来、レコードや CDなどの音楽パッケージを製造し販売するパッケージ・ビジネスを中心にこれまで繁栄してきた。しかし、音楽産業を取り巻くさまざまな外部環境変化の影響下、音楽パッケージ市場は年々縮小の一 途を辿っている。

 一方、低迷を続ける音楽産業において右肩上がりの成長を続けているのが、ライブやコンサート などのライブエンターテインメントビジネスである。これまでの音楽産業の顧客は、レコードや CDなどの音楽パッケージを所有し、ラジオやテレビ、音楽配信サービスなどの音楽メディアを楽しんでいたが、現在の顧客はライブやコンサートで直接音楽を体感し、アーティストや他の観客と共に楽しむことを重視するようになった。つまり、音楽産業における顧客は今、音楽コンテンツよりも「感動」を「共有」することができるライブエンターテインメントなどに「価値」を見出しているのである。」と(論文)。

 2015年後の数年間の間、音楽業界は再び成長している、ということになったとすれば、何によってもたらされていただろうか、ビジネスモデル的に考えるとどのようなことがいえるだろうか。


   
          
      

 日本ではないが、「2018年4月、アメリカの音楽業界を代表する業界団体の全米レコード協会(RIAA)が2017年のアメリカ国内の音楽市場レポートを発表し、小売市場規模は前年比16.5%増加し87億ドル(約9300億円)となり、2年連続のプラス成長を達成し、10年前の2008年の市場規模までようやく回復したと。アメリカで音楽市場が2年続けて成長し続けるのは、1999年以来初めてで、小売市場と同じく、卸売市場の売上高は59億ドル(約6300億円)、12.6%のプラス成長を達成した」という(記事)。

 これはなぜできただろうか。同記事では、「音楽市場の成長を考える時、『音楽ストリーミング』の議論を外すことはできないが、ただ『音楽を配信する』だけでは市場全体の変化を促進することは不可能だといい、音楽ストリーミングの普及は誰もが認めるところであるが、今やアメリカの音楽市場で売上の約2/3を占める最大の収益モデルとなり、引き続き低迷するCDなどフィジカル音楽とiTunesなどダウンロードの売上低下を補っている。売上高も成長の勢いを維持したまま前年比43%アップし57億ドル(約6000億円)で、音楽市場のシェアは65%まで拡大した(2016年は51.4%)」という(上記同記事)。

 「2010年代に入り、いつのまにかアメリカは「音楽ストリーミング大国」となり、音楽ストリーミングが新たな音楽ビジネスの主役であることを巨額の売上という実績で示すまで成長していたのである。」と同記事。すなわち、「ビジネスモデルを進化させたアメリカが音楽ストリーミングで勝利した。」とのことだろう。

 では、日本ではどのようになっているだろうか。2015年日本でも数々の定額制音楽配信サービスが開始され、それまで主流だったiTunesなどの音楽ダウンロード配信サービスから定額制音楽配信サービスへと徐々に変わり始められたことを踏まえ、2015年10月、MMD研究所等により実施された「スマートフォンでの音楽視聴に関する調査」の結果をもとにまとめられた「現状と課題」は分かりやすい(詳細)。

 また、前出した八木氏は同論文で次のように述べている。「音楽産業は、これまで音楽パッケージの売上のみを収益源とし、パッケージ・ビジネスに完全に依存してきた。しかし、現在、音楽パッケージ市場は縮小を続け、産業の支柱であったビジネスモデル自体が崩壊しつつある。このような状況を受け、レコード会社をはじめとする音楽関連企業は、アーティストに関わるすべてのビジネス活動から収益を得るビジネスモデルへとシフトするようになった。」氏は「この新たなビジネスモデルは、アーティストを核に、アーテ ィストによるビジネス活動の領域を 360 度の全方位へと広げ、収益の最大化を目指すことから『360度ビジネス』と呼ばれる。」とも説明する。

 筆者はとくに、氏がいう「音楽産業における音楽関連企業は、製品中心のビジネスモデルから脱却し、顧客のニーズを満たすためのサービスを中心としたビジネスモデルの構築へと歩みを始めている。」ことに共感し、製造業界だけではなく音楽業界も、という点に考えてしまう。「音楽業界の現在 vs 今後の音楽ビジネスの18の違い」(詳細)もあって、音楽業界におけるビジネスモデルは今後一層多彩に進化するだろう。


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